法人破産すると代表者の自己破産は必須

文責:所長 弁護士 福島 晃太

最終更新日:2025年01月10日

 法人破産とは、返済できなくなった債務を清算したうえで、会社などの法人を消滅させる手続きです。

 法人が消滅するということは、その法人の義務・権利も消滅してしまうということです。
 破産によって、法人は財産が換価されると同時に、借金などの支払義務も失います。

 一方、自然人である法人の代表者は、当然ですが法人がなくなっても消滅することはなく、その後の人生を過ごすことになります。

 では、法人が消滅した後、代表者は法人が負っていた義務や権利を引き継ぐのでしょうか。

 以下、破産した法人の代表者の自己破産について説明します。

1 法人破産による法人代表者への影響

 自然人である法人代表者と法人は、法律上は完全に別個の存在です。
 法人の債務はその法人に返済義務があり、代表者個人の債務は代表者が個人的に返済する義務を有しています。

 すなわち、代表者だからといって法人と一体というわけではなく、権利も義務も別々に持っているのです。
 したがって、本来的には法人の債務を代表者などが返済する必要はなく、法人が破産しても法人代表者が法人の債務を返済する義務はありません。

 

 しかし、問題となるのは「代表者が会社の債務の保証人や連帯保証人となっていた場合」です。

 特に中小企業などの場合、融資を受けるときに代表者個人が法人の連帯保証人になることが多いです。

 連帯保証人は、主債務者が債務の返済ができなくなった場合、代わりに返済する義務を負います。
 このため、本来は有限責任しか負わない人であっても、実質的には会社の債務を個人の財産からすべて弁済しなければならない無限責任を負っているのと同じようなケースが多いのです(※)。

 法人破産によって会社が消滅しても連帯保証人の支払義務は残るので、代表者が連帯保証人を兼ねている場合は、代表者が個人として消滅会社の債務を支払わなければなりません。

 

【※有限責任と無限責任】

 会社には以下の種類があります。

 それぞれ違いがありますが、大きな違いのひとつは「出資者が責任を負う範囲」です。

 責任の範囲には「有限責任」と「無限責任」があります。

 有限であれ無限であれ、出資者は会社の倒産について責任を負う義務を有しています。

・有限責任:会社が倒産したら自分が出資した範囲で責任を負う

・無限責任:会社が倒産して会社の財産だけで債務を弁済できない場合は自分の財産で弁済する責任を負う

 

会社の種類 会社の種類
株式会社 有限責任
合同会社 有限責任
合資会社 有限責任を持つ者と無限責任を持つ者が混在
合名会社 無限責任

 

2 法人破産と同時に代表者が自己破産するケース

 法的には別人格なので、法人が破産しても、代表者まで自己破産する必要は原則的にはありません。

 しかし、実際には法人破産と同時に代表者個人も自己破産するケースは多く見られます。

以下、代表者が法人破産に伴って自己破産することになるケースについて説明します。

 

⑴ 代表者が法人の債務を保証し、個人の財産では弁済できない場合

 典型的なパターンがこのケースです。

 法人が融資などを受ける際に代表者個人が連帯保証人となっていた場合、会社が消滅しても連帯保証人の支払義務が継続します。

 そのため、法人の債権者は、消滅した法人の代わりに連帯保証人である代表者へ支払いの請求を行います。

 もし代表者が個人の財産で弁済できるのであれば、自己破産の必要はありません。
 しかし、現実的に個人の財産では支払いできないことが多いため、代表者も法人とともに破産を選択することになります。

 

⑵ 代表者が法人からお金を借りていた場合

 法人破産では、その法人が保有するすべての財産がお金に換えられます。

 その財産には、法人が持っている債権も含まれます。

 もし、法人が法人代表者に対して債権を持っている場合、つまり法人が法人代表者にお金を貸している場合は、破産管財人が法人代表者にそのお金の返済を求めます。

 その借金の金額が大きく、支払いが困難であれば、代表者の自己破産に繋がる可能性があります。

 

⑶ 法人破産後、代表者が借金を支払えない場合

 破産した法人の債務を肩代わりした代表者が、債権者と交渉をして分割返済などに応じてもらえたとします。

 しかし、法人の破産後に、代表者が十分な収入を継続的に得られるとは限りません。
 その結果分割返済ができなくなり、やむを得ず自己破産するというケースも考えられます。

 消滅した法人の債務を、自分の財産を用いて完済できることもあるかもしれません。

 しかし財産を失ったため生活に困窮して借金をし、その借金が返済不能になって自己破産に陥るという可能性もあります。

 最終的に自己破産をせざるを得なくなるのであれば、法人破産と同時に自己破産した方が費用と時間を節約できます。

 法人破産の際は、代表者個人の自己破産についても同時に弁護士へ相談することをおすすめします。

3 代表者(社長など)の家族への影響

 法人破産という倒産方法を選んだ場合、法人の代表者、例えば会社の社長の家族や親族に何らかの影響はあるのでしょうか。

⑴ 直接的な影響

 法人とその代表者は、本来別個の存在です。

 同じように、社長個人とその家族や親族もまた別の存在です。

 仮に社長個人が自己破産するに至っても、家族まで自己破産しなければならないということはありません。

 自己破産をすると財産が換価・処分されますが、処分の対象はあくまで「破産した人が持つ財産」に限られます。

 例えば、自己破産によって社長本人が持つ車は処分されますが、社長の息子が自分で得た金銭で買った車などは処分されません。

 法人破産によって家族に直接的な影響が生じるのは、以下のようなケースです。

 

 家族が法人や社長の債務の保証人や連帯保証人になっていた

 もし社長の家族や親族が法人の債務を保証しており、支払うことができない場合は、家族や親族が連鎖的に自己破産をしなければならなくなる可能性があります。

 

 家族や親族が法人の事業に関与していた

 家族が法人の事業と何らかの関係がある場合は、法人破産の影響を直接受けます。

 例えば、家族が法人に勤務していて給与をもらっているのであれば、法人が消滅することで収入がなくなります。

 家族経営の会社の場合、家族の誰か1人が社長を勤めており、副社長はその配偶者などというケースも多いです。
 このような会社が破産すると一家全員が職を失ってしまううえに、借金まで背負い込んでしまうことになりかねません。

 また、家族や親族が会社の株主であれば、会社の消滅によって配当を受けられなくなるなどの影響があります。

 

⑵ 間接的な影響

 家族や親族が会社に直接関わっていない場合でも、間接的な悪影響を受けることがあります。

 例えば、法人破産に伴って社長が自己破産をすると、社長の持ち家や自動車等が処分されてしまいます。

 社長名義の家に住んでいる家族は引っ越しを余儀なくされますし、車がなくなれば交通手段が失われてしまいます。

 また、自己破産の際に保険の解約が必要なケースもあるので、社長に万一のことがあった場合に家族が保険金の支払いを受けられなくなることもあります。

 社長の自己破産で処分されるのは社長の個人的な財産のみですが、家族がその財産を使用しながら暮らしていることも多いため、家族は自己破産の影響を受けやすくなります。

4 法人破産は弁護士に依頼して解決を

 法人と代表者は別個の存在ですが、実務においては法人破産が代表者個人の自己破産に繋がることが多いです。

 家族や親族への影響も考えられるため、被害を最小限に食い止めたい場合は、早めに弁護士に相談してください。

 破産法には「これを行ってはいけない」という事柄が多数定められています。

 ご自身で破産しようとすると、気付かないところで失敗をしてしまい、事態が悪化するおそれがあります。

 法律の専門家である弁護士と話し合って、ベストな方法で解決を図りましょう。

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